一般社団法人 障害者スキー振興協会 設立にあたり

 
 私は15年に渡り、障害者スキーに携わってきました。スキーというスポーツはどのような障害があっても可能性を見出す事ができ、大自然の中での爽快感・滑走時のスピードや遠心力など非日常的な魅力を感じる事ができ、障害者にとって、特に素晴らしいスポーツであると感じました。
 
 障害者専門スクールに4シーズン在籍しました。器具が揃い何度も研修を行うことで、どのような障害でもスキーを楽しんで頂ける技術を持ちました。1シーズンに約400名のプライベートレッスンがあり、週末になるとスタッフが足りず、受講生の滑りたい時にレッスンを受ける事ができずにいました。また、受け入れ環境が整っているスキー場がなく、北は北海道、南は香川県から新潟県のスクールまで、飛行機や新幹線を乗り継ぎ、たくさんの時間や労力、交通費を費やしている方が多くいました。交通の便利なスキー場や行きたいスキー場を選択する事ができず、ごく限られたスキー場でしか滑る事ができませんでした。
 その後、ボランティアとして受講者の希望するゲレンデに訪れレッスンをしてきました。スキーの魅力は、スキー場毎に異なる斜面や雪質、景色、その地域の温泉や名物料理などを味わえる楽しみもあり、スクール時代では感じてもらう事ができなかった事を、共に感じる事ができました。しかし、私自身の仕事の合間に現地まで赴いていたため、必ずしも受講者の希望日にレッスンをする事ができず、交通費や宿泊費などを受講生に請求していたため、経済的負担を減らす事ができずにいましたし、私自身も長距離の移動レッスン移動という負担があり、安全に永く続ける事は難しく感じていました。そればかりではなく、様々なゲレンデの状況を細かく把握する事ができず、レッスンに適した斜面選択や非常時の対応など、現地のスクールインストラクターでなければできない事が多くあり、パトロールや索道などとの連携の重要性も知る事ができました。
 
 
 いくつかの団体の障害者スキーツアーや講習会にも、見学やお手伝いに行く機会がありましたが、限られた日程で行うため、その機会を逃すと滑る事ができない方も多くいました。障害者スキーには、様々な器具を持ち合わせ、その中から適した器具を選択し、身体状況や技術に合わせた斜面を選択し、的確な指導、また非常時の対応など、様々なものが必要です。それらを持ち合わせず障害者スキーに携わると、どのような結果になるのか、非常に残念な場面にも立ち会う事になりました。
 
 パラリンピック選手がどんなに活躍しても、受け入れ環境がありません。楽しみにしていた修学旅行で、友人は楽しそうにスキーをしていても、障害があると一日中ホテルから雪山を眺めるしかありません。同じゲレンデしか滑った事がなく、スキーの楽しみ方が分からずスキー道具を捨てた方がいます。いつも同じように遊んでいる兄弟でも、障害の有無によりスキーは同じスクールを受講できません。障害者スキーツアーを主催している団体の方が、『ボランティアの指導では安全管理ができずにいつか大きな事故が起こる』と危惧し、本心はイベントを辞めたいと聞きました。
 
 バリアフリーやノーマライゼーションが頻繁に叫ばれるようになり、障害者スポーツもパラリンピックなどの盛り上がりやメディアを通じて、身近に感じる事ができるようになりました。しかし、障害者スキーの現状は『いつでも、どこでも、だれでも』できないという状況です。
 
『スポーツは、障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない。』と、平成23年に制定されたスポーツ基本法の基本理念に掲げられました。スキーにも、より高いレベルで、より多くの地域で、いつでも好きな時に楽しむ事ができるよう、これまでの受け入れ環境を見直し、整備する必要があると痛感しています。
 
 私たちは、平成2410月、『一般社団法人 障害者スキー振興協会』を設立します。
健常者と分け隔てる事なく同じように行きたいスキー場を選び、受け入れ先の定めた日程ではなく滑りたい日に滑り、どのような障害でも同じように受け入れ環境が整うように、私たちは邁進します。いつか、どこのスキー場でも、健常者も障害者も共にスノースポーツを楽しんでいる風景が見たい。一人でも多くの方に雪山の素晴らしさを伝え、一人でも多くの方へスキーの楽しさや身体能力の可能性を見いだし、生涯に渡り楽しむ事ができるスノースポーツの魅力を広めるために、活動していきます。
この私個人が立てた目標は、多くの方々に共感して頂き、目標を共有できる仲間と巡り会え、多くの企業様からもご協力頂けるようになりました。これからは私一人の夢ではなく、多くの方々と共に夢の実現に向けて一層強く邁進していきたいと思っております。
 
                                                 代表理事 津川朋也

626R4133








   Profile


障害者スキー指導歴15年。
障害者専門スキースクール、ボランティア活動、様々な団体のお手伝いや見学などを通して、障害者スキーの取り巻く環境に問題点を多く見いだす。
自分自身の専門知識の充実を図るために、理学療法士資格取得。
世界でも例を見ない目標『いつでも、どこでも、だれでも』スキーができる環境を整備する事を目標に2009年、任意団体 障害者スキー振興協会を設立。2012年10月1日、一般社団法人(非営利型)を取得し、さらなる活動の充実を図るべく奔走中。